フィリピン テロ-イスラム過激派アブサヤフの犯行か

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フィリピン ロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領の地元、ミンダナオ島ダバオ(Davao)で9月2日に爆破事件が発生。
14人死亡。

イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓ったイスラム原理主義過激派グループ「アブサヤフ(Abu Sayyaf)」の報道官が3日、犯行を認める声明を出し
「国内全ての聖戦士に結束を呼びかける」とし「国のイスラム戦士の結束のためにやった。数日以内に別の場所も攻撃する」と述べ、さらなる攻撃を仕掛けると警告。
フィリピン アブヤサフ イスラム国 テロリスト

アブサヤフ報道担当者は3日、民放テレビに対し「われわれが何も恐れないことをドゥテルテ大統領に示すために起こした」と主張した。

 

マーティン・アンダナール(Martin Andanar)大統領報道官、ロレンザーナ国防相も、アブサヤフによる爆弾テロとの見方を示した。
ダバオ市長でドゥテルテ大統領の娘でもあるサラ・ドゥテルテ(Sara Duterte)氏も
「大統領官邸から爆破はアブサヤフによる報復だとの連絡が市のほうにあった」とCNNフィリピンに語った。

 

目次

事件経緯

事件は2日午後11時(日本時間3日午前0時)頃、ダバオ中心部の高級ホテル近くにある市場で簡易爆弾装置が爆発したもの。
現場からは、爆発物の破片とみられる金属片が回収されたという。

警察などによると、これまでに少なくとも14人が死亡したほか、67人が負傷。うち16人が重体となっている。
負傷者には子供も含まれるという。

 

ドゥテルテ大統領も当時ダバオに滞在中だったが、現場から10キロ離れた大統領迎賓館にいたため難を逃れた。

 

爆発が起きたダバオの市場とは

ダバオ 夜市 市場 フィリピン
ダバオ 夜市 市場 フィリピン
出典:davaotoday

爆発が起きたのは屋台や路上マッサージ店が立ち並ぶダバオの中心部地区。
爆発当時、夜市が行われていて買い物や食事を楽しむ大勢の客でにぎわっていたという。

ミンダナオ島西部はイスラム教徒が多数派を占め、アブサヤフが身代金目的の誘拐を繰り返している。

 

ドゥテルテ大統領と事件場所ダバオとの関係

フィリピン ドゥテルテ大統領
出典:nst

フィリピン国家警察のデラロサ長官は3日の記者会見で、
「テロリストは、ドゥテルテ大統領にとってダバオがどれだけ重要かわかっている」と述べ、アブサヤフが政権に打撃を与えるために、大統領の地元であるダバオを狙ったという見方を示した。

 

ダバオはかつて「殺人の都」と呼ばれたが、ドゥテルテ氏が市長時代に治安対策を推し進め、フィリピンで最も安全と評されていた。
その「最も安全な都市」ダバオのイメージを壊し、政権に打撃を与える意図があるとみられる。

 

ドゥテルテ大統領は「私にはこの国を守る義務がある」と述べ、トップとして治安の維持にあらゆる手段を講じる考えを示した。

 

軍や警察などに強い権限を与える「無法状態宣言」発令

ドゥテルテ大統領は3日、軍や警察など治安当局により強い権限を与えることになる「無法状態宣言」をフィリピン全土に出した。
広範な捜査や捜索、検問や夜間外出禁止令も視野に入るため、強権行使で人権弾圧への懸念も高まる。

 

ドゥテルテ氏は「戒厳令ではない」と強調。だが「無法状態宣言」の期限を区切っていない。
ドゥテルテ氏は大統領就任後も、警官らへの演説で「容疑者が抵抗したら迷わず射殺しろ」とけしかけ、超法規的手法を容認してきた。

 

軍を警察と共に治安維持のために出動させることが可能になると憲法で保障されているという。

 

ドゥテルテ大統領とは

ドゥテルテ大統領 フィリピン
出典:news.abs-cbn

今年6月まで20年余りにわたってダバオ市長を務めた。
6月末に大統領に就任。
ドゥテルテ氏は強権を発動して治安対策を強化。アブサヤフの掃討作戦に乗り出したほか、麻薬組織を摘発している。
同氏の大統領就任から二カ月で警官らが取り締まり現場で殺害した容疑者は千人近くに上り、超法規的措置が横行。

 

事件が起きたダバオ出身のドゥテルテ氏は、自らを「ダバオボーイ」と呼ぶ。
大統領選後は「ダバオからマラカニアン(大統領官邸)に通う」と発言するほど故郷に愛着をもつ。

 

大統領府は3日、ドゥテルテ氏の初の外遊となる4日からのブルネイ訪問を取りやめることを明らかにした。

 

アブサヤフと政府軍の交戦、その報復か

デルフィン・ロレンザーナ(Delfin Lorenzana)防衛相はアブサヤフによる報復との見方を示した。

治安改善を最優先の政策に掲げるドゥテルテ大統領は、
アブサヤフに対して今年6月に就任するまでは対話を呼びかけていたが、
アブサヤフ側が応じないことから就任後は強硬な姿勢に転換。

先月25日には組織の壊滅を軍に指示し、展開している部隊を増強して掃討作戦を進めていた。
軍隊の規模は9千人。フィリピン全体が12万人の軍隊で構成されているため、多くを投資していることがうかがえる。

 

ダバオから約900キロ離れアブサヤフが拠点としているホロ(Jolo)島で数日前に政府軍とアブサヤフが交戦し
アブサヤフ側に21人の死者が出たことから報復の可能性を予見して軍に警戒を求めていた。

 

アブヤサフとは

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出典:news.vice
アブサヤフは「刀鍛冶の父」といった意味。
イスラム国(IS)への忠誠を誓うものの身代金目的の外国人誘拐事件を起こすことが多いことから、「単なる犯罪者集団」(国軍幹部)との見方も強い。

設立の歴史

アブサヤフは1990年代初めに設立したものの、一体となって活動している1つの組織ではない。
フィリピン各地で「アブサヤフ」の御旗の下に、いくつかのグループ(セル)が活動している。

フィリピン南部のミンダナオ島で反政府活動をしていた急進派イスラム組織、モロ民族解放戦線(MNLF)から1991年に分派し、アブドラジャク・ジャンジャラニが設立。

サウジアラビアやリビア、シリアで学んだジャンジャラニは、1998年に警察との銃撃戦で死亡し、その後は彼のきょうだいであるカダフィ・ジャンジャラニが組織の実権を握った。
カダフィの指揮の下、イデオロギーではなく金銭を目的とする誘拐を多数実行。そのカダフィも2006年9月、銃撃戦で死亡した。

アブサヤフの現在の指導者はイスニロン・ハピロンという男で、2001年にアメリカ人3人を拉致したことで、アメリカの国際指名手配リストに載っており、その首には500万ドルの懸賞金が掛けられている。
組織の構成員は1000人以上いたが、2012年には200~300人程度にまで減っている。

 

アブサヤフの拠点

主としてミンダナオ島およびスルー諸島を拠点とし、ジョロ島、バシラン島から行動を起こしている。

 

アブサヤフが起こした犯罪事件

フィリピン国民や当局への暴力行為で名を轟かせたが、恐喝や麻薬取引などの犯罪にも深く関わっている。
フィリピン史上最悪のテロである2004年の「スーパーフェリー14」爆破事件もアブサヤフの仕業で、116人が死亡。

 

アブヤサフによるカナダ人拉致殺害事件

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出典:CBC
カナダ人男性2人とフィリピン人女性1人は2015年9月、ヨットで南部ミンダナオ島沖のサマル島にあるリゾート施設を訪れた際、同施設の支配人を務めるノルウェー人男性とともに拉致された。
アブサヤフは2016年当初に最終通告と称し、人質3人がフィリピンのドゥテルテ次期大統領や大使館に助けを求めるビデオを公開していた。
フィリピン人女性は頭を覆うスカーフを着け、男性2人が現地の言語でドゥテルテ氏に語り掛ける場面が映っていた。

 

そして2016年4月と6月に交渉が決裂したとして人質のカナダ人男性2人を殺害。

2016年4月25日、フィリピン南部スールー州の町ジョロで、切断されたカナダ人男性の頭部がビニール袋に入れられ、路上に捨てられているのが発見された。

 

カナダ トルドー首相
出典:gnnliberia
カナダのトルドー首相は声明で、犯行グループの「卑劣で残忍な行為」を強く非難。「カナダはテロ集団に屈しない」と改めて表明している。

 

アブサヤフとイスラム国(IS)との関係

イスラム国 ISIS
2014年には幹部が過激派組織「イスラム国」(IS)への忠誠を誓うビデオがネット上に掲載。
フィリピンにISの拠点を作ろうと画策しているとも指摘されている。
アブサヤフは現在、ISISの黒い旗も使用している。
だが、エジプトのシナイ半島で活動するISIS傘下組織「シナイ州」のように、ISISの忠実な分派として活動するのではなく、「ISISブランド」を使って自身の知名度を上げようとしているのだろうと専門家は分析する。

 

アブヤサフに対する各国の対応

フィリピン南部で起こしてきた数々の反政府活動により、アメリカ、EU(欧州連合)、カナダはいずれもアブサヤフを過激派組織に指定している。

 

冒頭画像出典:Inquirer News

参考:
NHK
読売新聞
産経新聞
毎日新聞
産経ニュース
中国新聞
ハフィントンポスト
日本経済新聞
朝日新聞
東京新聞
時事通信
日刊スポーツ
CNN
AFPBB
FNN

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