[連載小説]夢の根もと①

 ***

 ユイルという村があった。

 その村に暮らすピエールとブランという名前の少年二人の齢が十になった時、学校の先生を通して、村長から声が掛けられた。

 村長から招集が掛かったピエールは、脇目も振ることなく、一目散に村長の家へと駆けて行った。ブランもピエールの後を追ったが、元々の運動能力の違いにより、校舎を出る前にはピエールの姿かたちを捉えることが出来なくなっていた。

「村長、こんにちは!」

 呼吸を乱したまま、ピエールは村長の家の扉を開けた。

「おや、もう来たのかい。相変わらず、ピエールは行動が早いな」

「この村の学校で、いつも俺は一番なんだぞ。当たり前でしょ」

「ははっ、そうだった。だからこそ、ピエールのことを呼びかけたんだ」

 豪快に笑う村長の言葉に、ピエールの心臓は速くなった。学校から村長の家まで全力で走ったことだけが原因ではなかった。

「そ、それって……!」

「話の続きはブランが来てからにしようではないか」

 ピエールは頬を膨らませたが、村長の言うことは変わらなかった。半ば面白くない思いを抱きながら、ピエールはブランが一刻も早く村長の家の扉を開けることを願った。

 しかし、当然ながら、ブランはいつまで経っても来なかった。教室から学校の門までの短い距離でさえも、ピエールとブランの間には差がついてしまったのだ。学校から村長の家までの長い距離を考えると、ブランが来るのはまだまだ先だろう。

 先に話すように、とピエールは何度も村長にせがんだが、村長の答えは変わらなかった。

 村長が淹れた水をろくに口に付けないまま、ピエールは一人家の中を右往左往していた。

「こ、こんにちは……」

 恐る恐るブランが村長の家の扉を開けたのは、ピエールが村長の家に来てから半刻ほど遅れてのことだった。ピエールはキッと睨み付けると、ブランは慌てて扉を閉めた。

「お、遅くなってごめんなさい……」

「あぁ、いいんだよ。学校からここまで来るのに疲れただろう。水でも飲んで、息を整えなさい」

 村長の言う通り、ブランは机の上に置いてある水を飲んだ。学校から急いでやって来たブランは、よほど喉が渇いていたのだろう、喉を鳴らしながら瞬く間に飲み干した。

 そんなブランの姿を村長は微笑まし気に眺めていたが、ピエールは違っていた。

 ブランよりも速くこの場所に訪れながらも、ピエールは水を飲んで息を整えることなんてしなかった。やはりブランよりも体力があるのは自分だ、とピエールは更に自信を付けることが出来た。

「ねぇ、そろそろ話してくれてもいいでしょ」

 ブランが水を飲み干して机にコップを置いた頃合いを見計らって、ピエールは村長に問いかけた。

「ああ、そうだったね。二人とも、そこに座りなさい」

 村長の指示に従って、ピエールとブランは椅子に腰かけた。

 机の近くにいたことで先に椅子に座ったブランのことを、ピエールはよく思っていなかった。

 先に村長の家に来たのは、ピエールなのに。生まれてからずっとブランとピエールは共に過ごしているが、動きは遅いくせに、ブランは何かとタイミングだけは良かった。

「二人を呼んだのは、他でもない。ピエールとブランの二人が、今回の候補に選ばれたことを伝えようと思ってね」

 町長の言葉に、ブランの肩は跳ね上がった。当然ピエールも、その身を固くさせた。ピエールがブランに対して抱いていた憤りなど、村長の言葉を耳にした後では、些細なことに思える。

「君達も知っている通り、この村では世界中の人が認めるほどの優秀な人材が生まれ、その人物の名前がこの村には付けられている。その人物の功績を称え、この国の中心地で最高峰の知恵を学ぶ機会が、ユイルの村の子供達に与えられるようになったんだ」

 四半世紀に一度、国の中心地から使者が足を運び、候補となった村の子供を引き取る。使者に見事選ばれた子供は、村にいては学ぶことが出来ない知識を手に入れ、世界を牽引するような存在となることが出来る。実際、過去に選ばれたユイルの村の子供達の名は、世界に轟いている。

 この村に生まれた者ならば誰もが羨まむ機会が、今年になるというわけだ。

「いいかい。候補に選ばれたとはいえ、実際に中心地に行けるかどうかは分からない。二人とも選ばれるかもしれないし、その逆もあり得る。答えが分かるのは、使者が来る一週間後。たとえ、どのような結果になろうとも、恨んではいけないよ」

 諭すような村長の声に、ブランとピエールの二人は素直に頷いた。

<――②へ続く>

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