[連載小説]リフレーミング①

 ***

「――甲斐瑛太郎。目の前にあるのは、あなたにとっての宝です」

 下駄箱の中に入れられていた手紙を頼りにしながら空き教室に入った瞬間、ボイスチェンジャーを使ったような雑音の混じった声が、僕の耳に届いた。

 教室の中を見渡すも、パッと見た感じでは誰かがいる気配はなかった。しっかりと探せば、この悪戯を仕掛けた人物を特定出来るのかもしれないけれど、それよりも宝が何なのか早く確かめたかった。
 教室の真ん中に置かれた何の特徴もない箱の前へと進み出る。

「さぁ、開けて確かめてください」

 箱の前に立ったことを見計らったかのように、再び雑音混じりの声が響いた。
 僕は怪しさを感じながらも、声のままに従う。

 無機質な声に従って、箱を開けると――、

「……ガラクタ?」

 僕は正直な感想を口にしてしまった。

 箱の中身は、パッと見たところ金貨が入っているように思えたが、よくよく目を凝らすと、金色の折り紙で作られたお手製のものだった。しかも、何度も折り直したのか、金色の折り紙はしわくちゃになっている。
 宝物だと言われて、ワクワクしながら開けたところにこんなものが入っていれば、肩透かしを喰らうのも仕方がない話だ。

「が、ガラクタなんかじゃありません! これはれっきとした宝であって――」

 むきになった反応が、少し面白かった。

 しかし、雑音混じりの声は言葉の途中でぷつんと途切れた。ボイスチェンジャーをオンにしっぱなしなのだろう、ザーッといったノイズだけが虚しく空き教室に響いていた。なんだろう、この空気は。

「よ、用がないのなら、僕はこれで帰らせてもらうよ」
「……本当に、憶えがないのですか?」

 先ほどのむきになった声とは打って変わったような、僕を値踏みするかのような冷静な声で問いかけられる。

「う、うん。残念だけど、全くないかな。僕には幼稚園の子供が作ったような、金色の折り紙のガラクタにしか見えない」

 子供だったら金メダルを模した折り紙に対して、純粋に宝物だと喜んでいたのかもしれない。だけど、残念ながら、僕はもう高校生だ。こんなものを手に入れたところで、別に嬉しくも何ともない。

「……そうですか」

 落胆したような声が響いた。期待に応えられなくて何だか申し訳ないような気持ちになるが、別に僕が悪いわけじゃない。むしろ、空き教室まで呼ばれた僕の方が被害者だろう。

「じゃあ、そろそろ本当に帰るよ」
「あ、待ってください!」

 聞こえたのは、ボイスチェンジャーの声ではなくて、肉声だった。少年のあどけなさが残った声は、どこかで聞いた覚えがあったが、すぐに特定の人物に思い至ることは出来なかった。

 少年の声は、すぐに雑音混じりの声に変わる。

「今日のところは、ひとまずこの宝を持って帰ってもらっていいです。ですが、ただでは与えません。一日、猶予を与えます。また明日、同じ時間にこの空き教室に来て頂いて、この宝について、あなたの見解を答えていただきます」
「え、いや、ちょ」
「見事、私が求めていた答えを提示して頂けたら、この宝はそのままあなたに委ねます。しかし、もしも私が求めている回答に辿り着くことが出来なければ、残念ですがこの宝は返していただきます」

 なんか勝手に話が進んでいる気がする。だけど、僕が言葉を挟めるような隙は与えられなかった。よく分からないまま、話を聞くことしか出来ない。

「二十四時間しっかりと宝の価値を考えて、是非ともこの宝をあなたのものとすることが出来るようにしてください。では、今日はこれで解散とします。さようなら」

 変に礼儀正しく言われてしまっては、この金色の折り紙を手にして、この空き教室を出るしかない。頭の中に疑問符を浮かべながら、金色の折り紙をワイシャツの胸ポケットにしまうと、「さ、さよなら……」と口にして廊下に出る。

 そして、後ろ手に扉を閉めると、

「別に欲しくないんだよなぁ……」

 正直な思いを口にしながら、ひとまず学校を後にして帰宅することにした。

――②へ続く

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