「酒は飲めないから、目玉焼きをいくつか下さい」と言った。彼女は「こういうものは家に帰って奥さんに作ってもらうものよ」と言った。私が「妻はいないよ」と言うと「こんなに素敵な人がまだ独身なの」と言った。
私は笑いながら最初の一言で教会に通っているかどうかを聞いてみた。こんなに忙しいのに教会に通う時間なんてあるわけがないと、自分に信仰心がないことをはっきり話した。「ああ、この人は教会に通っていないんだ」と思って聖霊様の感動を受けて話してあげても、言葉が出てこないくらいだった。
続けて伝道の話をしたら、彼女は伝道をしにここに入ってきたのかと言って嫌がった。しかし神様とイエス様を信じるべきだ、と笑顔で粘り強く話すと、信じればいいことは分かるが忙しくて行くことができないと言った。実際に心苦しいことがある度に、自分が神様をしんじていないからそういうことが起こるんだとつくづく感じたと言った。自分も一生飲み屋に住み着く人間ではないので、後には必ず教会に行くから、たくさん祈ってほしいと言った。またお金を早くいっぱい稼いで、この仕事をやめられるように神様に祈ってほしいと願った。
そして自分のような罪人も神様を信じれば、神様が受け入れて下さるのかと聞いてきた。「神様が恥ずかしがる私の心を感動させなかったならば、酒も飲まないのにどうして私がここに入ってきただろうか。私は目玉焼きを食べるため、ここに入ってきたのではないのだ。お金もないし、ポケットをはたいて、ただ伝道するために目玉焼きを注文した」と言うと、卵のお金はとらないからたくさん食べて帰るように勧め、また卵だけじゃなくて、お酒を除いた食べたい物は何でも食べてもいいと言って、屋台のあらゆる種類の料理を出してくれた。嬉しくて感激のあまり熱い涙が、お互いの心の中に流れた。その時「今日は静かだねえ」と言いながら2、3人の客が入ってきた。伝道をしている間にはお客は入ってこなかった。伝道をしている間にお客が入ってこないように、神様が本当に静かな環境を作って下さったのだ。彼女は今度また来てほしいと言ったが、26年が過ぎた今日まで、その屋台には2度と行くことができなかった。
今もそこを通り過ぎて行く時には、昔のことが思い出される。今はその場所に焼肉屋が建っている。その日もたくさん伝道をしたが、その屋台の若い女の人の伝道が一番印象に残っている。その日も聖霊様が強く働いて下さらなかったならば、文句ばかり言われて追い出されるところだった。これからは屋台も回り、伝道しなくてはならないと自信をつけた日だった。
(続く)
伝道、そのやりがいと苦痛(5)ー鄭明析牧師
冒頭画像出典:鄭明析牧師公式サイト